佐野君の家にたどり着くと、直ぐにお母さんが出迎えてくれて、

「お帰りなさい。奏ちゃん、疲れでたしょ?あ〜あ、潮で髪がベタベタじゃない!直ぐにお風呂に入んなさい?」

ただいまも言う隙もなく、バスルームへと行かされてしまった。

いくらなんでも着替えが無いとお風呂には入れない…

一旦佐野君の部屋に着替えを取りに行かないと。

二階に上がり佐野君の部屋をノックして中に入ると、佐野君はベッドの上で大の字になり眠ってしまっていた。

…今帰ってきたばっかりなのに…

もう寝ちゃってる…

試合してるんだもんね。
海で泳いでだりしてたし。
自転車で二人乗り往復…

…夜は毎日遅くまでバイト。

普段の佐野君はどちらかと言うと、のんびりしてる感じがするから、そんな事あまり考えたりしなかったけど…

ゆっくりする時間なんてあまり無さそう…

何か佐野君にしてあげらる事ってあるかな?

考えてみたけど…
今の私に出来る事は無いって事に気付いて、ちょっと落ち込む。

とりあえず今は寝かせといてあげよう。

そんな事位しか思い付かないけど、怪我が治ったら美味しいもの沢山作ってあげよう。

お母さんに佐野君の好物聞いとかなくちゃ。

とりあえず昨夜の晩御飯のメニューは明らかに佐野君の好物ばかりだったみたい。

ハンバーグとカルボナーラとグラタンにおでん。

こんな無茶苦茶なメニューが食卓に並ぶのは、年に一度の佐野君の誕生日だったから。

誕生日ケーキは無かったな?
佐野君は甘い物が苦手なのかも?

「…かなでぇ〜…」

色々と思考を張り巡らせていた私は、佐野君が私を呼ぶ声に現実に引き戻された。

見ると佐野君はスヤスヤと眠っていて、それが寝言だとわかっていても、つい嬉しくなって口元が綻んでしまう。

…今、佐野君の夢の中に居るの?私。

ベッドの横のフローリングにペタリと座り、ベッドに肘を付いて佐野君の寝顔を見つめる。


夢の中の私。
今佐野君と何してるの?
…いいな、あなたが羨ましい…


なんて、夢の中の私に嫉妬してしまって、眠る佐野君の頬にゆっくりとキスをひとつ落とした。