先生の車で学校に戻ると、佐野君は体育館横の水飲み場で上半身裸になり、ホースを掴んでみんなに向かって放水していた。

……また裸で…

私は少し呆れてしまって、恥ずかしさよりも、笑いが込み上げてきた。

「ぎゃあぁっ!冷て!」
「気持ちいぃ〜♪」
「先輩!こっちにも!」

佐野君はホースを振り回し、勢いよく水しぶきをあげながら、大きな声で笑っていて。

あんなに子供っぽく笑う佐野君を初めて見た私は、キラキラと一粒つづ光る水滴と、その隙間から見える佐野君の姿を、暫く放心状態で見つめてしまっていた。

…佐野君。
凄く綺麗……

やがてそれには小さく虹がかかり、更に佐野君を美しく彩る。


「……あ。奏、戻って来てたんだ?」

佐野君が私に気付き、にっこりと笑う。

その笑顔に軽く目眩すら感じる。

それだけで私の心のは佐野君の虜になってしまう。

佐野君でいっぱいになる。

「うん」

佐野君に駆け寄りバッグの中からタオルを取り出し、背伸びをして佐野君の頭にかける。

「サンキュー」

ゴシゴシと頭を拭きながら、佐野君が蛇口の詮を捻ると、他のみんなも一斉に裸になってTシャツをギュウッと絞る。

さすがに私はその場に居づらくなって、体育館に入り隅に座って佐野君を待つことにした。

午前中の紅白戦。
佐野君、凄かった。

佐野君の本格的なバスケを初めて見た私は、その動きに息も出来ないほど見とれてしまった。

他の部員達もそう。

三人のディフェンスも軽くフェイクで交わして、振り向きもしないのに真後ろに確実にパスを繋ぐ。

先生が佐野君にアメリカ行きを進めるのも頷ける。
だけど、佐野君が言ったように、アメリカは遠すぎるし簡単には行けないと言う事もわかるけど…

佐野君はホントは……


膝を抱えてうずくまる。


……ダメ。
考えない。
考えたくない……


「…か〜なでっ。どうした?疲れた?」

顔を上げると目の前に佐野君がしゃがみ込んでいた。

「ううん、大丈夫。みんな裸になるんだもん、恥ずかしくて、ここで佐野君待ってたの」

「…あいつら、奏にセクハラするとは…もう一回坂道やらすか…」


…そう言う佐野君も裸じゃない……