部屋に入ると直ぐに佐野君は、シャワーを浴びる。とバスルームに入っていき、私はリュックから洋服を取り出し、着替えようと思ったんだけど、静さんが居る手前着替える事ができないでいた。

佐野君がシャワー終わってから着替えよう。

「奏ちゃん、俺、奏ちゃんに感謝してる」

静さんが窓の外を眺めながら私にそう言ってきて。

「はい?感謝?何がですか?」

静さんに感謝されるような事が思い浮かばない私。

「茜の事だよ」

「…佐野君の事?」

「うん。茜の事、茜の怪我の事、知ってるよね?」

私がこくりと頷くと、静さんは私の方を向いて、窓枠に腰掛けた。

「アイツさ…子供の頃からバスケが大好きで、もうそれしかなくて、他の子達がゲームやなんかで遊んだりしてる間も、毎日毎日バスケット…

今日はどれだけシュートを決めたとか、ジャンプしたらリングに手が触れたとか…
そりゃもうキラキラした目でさ、俺に言ってくるんだよ…

中学に上がってからは更にそれに火が点いてさ、毎日夜遅くまで練習してて、家に帰ってくるなり玄関先で倒れ込んで、そのまま朝まで爆睡する事もよくあったな、はは。

俺はバスケの事はよくわからないけど、そこまで夢中になれる事があるって正直、羨ましくもあったよ。

将来もバスケで生きていくって言ってさ、ホントにあちこちのバスケの強豪校から、推薦の話がすでに一年生の頃からくる程、周りからも期待されてた。
…それなのに…

三年の全国大会決勝の時、二度目の靭帯断絶。

それから茜は一切バスケの話をしなくなった。
手術の後は毎晩のようにうに膝を抱えてうなされてた。

突然夢を絶たれた茜は、家からも出ていくって言ってさ、こっちに一人で来たんだよ。

それからの茜はあまり家にも帰って来なくなって、まあ、遠いし、バイトと学校で忙しかったんだろうけど…

でもさ?奏ちゃん連れて帰って来たあの日から、週末は帰って来るようになって、後輩にバスケの指導もするようになった。

辛い過去を乗り越えて、やっと自分の中で立ち直る事が出来たんだ、新たな将来の目標も出来たみたいだし、俺はそれが奏ちゃんのお蔭だと思ってる。

だから、感謝してる。

茜の事、立ち直らせてくれて、ありがとう、奏ちゃん」