「拓也!佐野君!」

美樹が椅子から立ち上がり、ツカツカと俺達に近付いてきた。

…よかった…美樹ちゃん、助けて。

美樹は背伸びをして俺からグラスを奪うと、何を考えているのか、俺の腕を拓也の背中に回し。

「コレでよし!二人ともそのままね?動かないでね」

携帯を取り出しあらゆる方向から写メり始めた。

「…あの、私達も写メっていいですか?」

同じ学校の(多分1年生)女の子数人が遠慮がちに美樹に聞いてきた。

「え?うん。いいよ♪どうぞ?」

俺と拓也は抱き合ったまま女の子に囲まれてしまった。

「…あの、何してるの?美樹ちゃん…」

俺が聞くと美樹は、

「写メってるんだよ、見てわかんない?ほら佐野君、もっとギュッて抱きしめて!」

「あ。はい…って、違う。何で写メってるの?」

「え?何でって言われても、お似合いだから?ねぇ?」

周りの女の子達に同意を求める美樹。女の子達も、うんうんと頷く。

「美樹ちゃんは拓ちゃんの彼女だろ?」

「そうだけど?」

何当たり前の事聞いてんの?みたいな顔で俺を見る美樹。

「…この体制、許せるの?」

「許す?訳わかんないんだけど?」

「いや、俺が訳わかんないんだけど…」

「あの、佐野先輩?コレは別腹といって、単にカッコいい男の子が抱き合ってたら、そそると言うか、萌えると言うか…」

…は?そそる?

「そう!それよ!萌えるのよ!」

美樹が興奮したように言うと女の子達も、

「だよね〜♪カッコいい佐野先輩と可愛い久保田先輩♪」

「このツーショットは美味しいよね?」

「うんうん♪ご飯三杯はイケる!」

「あたしなんか五杯はイケるわ!」

「久保田先輩!もっとうっとりな表情でお願いします!」

「うぇっ?こっ、こう?」

「きゃあぁ〜♪いいです!萌えます♪」

言いながらパシャパシャと写メる女の子達。

…お願いだ、日本語で話してくれ。

貴司に助けを求めようと目をやると、遠巻きに怯えた表情で俺達を見ていた。

…ちっ。使えない奴…

そうだ。奏に助けてもらおう。

と、奏の方を見てみると、今まで見た事が無いような真剣な顔で、クラスの女子と一緒になって俺達に携帯を向けていた…