俺を誰も知らない他県の進学校に入学した。


スポーツも盛んじゃないし、俺を知ってるヤツなんか居ないだろう。


地元じゃちょっとした有名人だった俺。


そんな中、地元の高校に行く気にはなれなかった。


哀れみの目で見られるのがたまらなく嫌だったし、変な慰めもごめんだった。


気分も新たに、今までバスケ三昧で遊んだ事なんて殆ど無かったから、高校デビューしてやる、と、意気込んでいた。


意気込み過ぎて、朝早くに学校に着いてしまった。


まだ土地勘がなく、迷子にならないように早めにアパートを出ただけだけどね。


早朝の学校はまだ人も居なくて、毎日朝練していた中学時代を思い出す。



体育館の扉が少し開いているのが見えて。


自然と足がそちらに向かう。


懐かしいボールが一つだけ寂しく転がっていて、それを手に取り軽くドリブル。


徐々に走り出す。


フルバック。
クロスオーバー。
チェンジオブペース。
レッグスルー。
タッグイン。
ターンムーブ。


まだ身体が覚える。


興奮する。


ゴールに向かって走り出す。


スリー。決まった。


レイアップ。
ジャンプシュート。
フェイドアウェイ。


さらに反対側のゴールに向かい全速力。


−−ダンダンダンッ!


数歩の助走をつけて……
思い切り、飛ぶっ!


−−ザッ!


上からボールをリングに叩き込み、そのままリングにぶら下がる。


………俺。


……まだ走れる?
まだ…跳べる?


ゴールから手を離し、着地と共に左膝に痛みが走る。


「…いっ!」


痛みに顔を歪めた瞬間。


−パチパチパチ!!


手を叩く音がしてそちらに顔を向けると、一人の女の子。


体育館の入り口からこちらに向かって近付いてくる。


「凄い!今のってダンクシュートって言うんだよね?私初めて見た!凄く高く跳ぶんだね?びっくりしちゃった!」


キラキラした笑顔で俺に話しかける女の子。


俺はその笑顔の可愛さに顔が熱くなり、思わず後ずさった。



それが奏との初めての出逢いだった。