佐野君は暫くプリプリと腹を立てている様子だったけど、次第に機嫌は直ってきたみたいで、私は胸を撫で下ろした。
「…そろそろ着替えるか」
佐野君は立ち上がると、クローゼットから制服を取り出し、その場で着替え始めた。
慌ててうつ向く私。
…佐野君って恥ずかしく無いのかな?裸でも平気みたいだし、私が意識し過ぎなのかな?
「奏は?どうする?一緒に出る?」
佐野君が聞いてきた。
「…私、病院に付け替えに行かなくちゃ行けないの、だから一旦うちに帰るね?病院開くまで時間もあるし…」
「何で?わざわざ帰るより、うちにいればいいじゃん?」
「…でも」
「はい。コレ」
佐野君はクローゼットの中の小さな引き出しの中から何やら取り出た。
受け取りそれを見ると、
「うちの合鍵。奏にやる」
「……え?」
「いつでも好きな時に来ていいから、つっても俺、バイトで殆ど居ないけどな?はは」
そのまま着替えを続ける佐野君。
「……でも…」
「何?いらないの?」
「…いや、そう言う訳じゃ、でも…佐野君の…彼女…とか…」
なるべく佐野君と彼女の話をするのは嫌で、避けてたんだけど…
さすがに合鍵とか…
凄く嬉しいんだけど、彼女に対する罪悪感が芽生えてしまった。
「あ−…俺、彼女と別れたから…」
「…えっ?…何で?…」
驚きだった。
「んー…、フラれた?みたいな?他に好きなヤツが居るんだと…」
佐野君をフルなんて、信じられない…
でも…
どうしよう、佐野君には悪いけど、凄く嬉しい。
自分の事は棚に上げて…
…私ってなんて嫌な人間なんだろう。
「だから、気にせずいつでも来てくれ」
背中を向けたまま、パタンとクローゼットを閉める佐野君。
「…うん。貰っとく、ありがとう…」
鍵をギュッと左手で握りしめる。
佐野君からまた宝物を貰ってしまった。
佐野君はいつも、こんなにも私を幸せな気持ちにしてくれる、私は佐野君に何をしてあげられるんだろう?いつも心配や迷惑ばかりかけている気がする。それでも佐野君は私に対して、優しく笑いかけてくれる。
佐野君?私は貴方が好きなんだよ?
こんな事されたら、もっと好きになっちゃうよ…

