「よし!」

怒ったかと思ったら、今度は笑顔になって私の頭を撫でる佐野君。

私は訳がわからずきょとんとしてしまう。

でも、もう怒ってないみたい、よかった。
佐野君に嫌われたりしたら私、大袈裟だけど、悲しくて死んでしまうかも?

なんて考えてしまう程、私の中で佐野君の存在が大きく膨れ上がっていた。

「朝飯、買ってきた、一緒に食べよ?」

「…うん」

テーブルの上にコンビニの袋を置き、中からサンドイッチと牛乳を取り出す佐野君。
お互い向かい合わせてテーブルに着くと、佐野君はサンドイッチのフィルムを外し、牛乳のパックにストローを刺してくれた。

「ありがとう、いただきます」

牛乳を一口飲んでサンドイッチを頬張る。

「…なんか…いいな、こう言うの」

「え?何が?…」

「行ってらっしゃいとか、ただいまとか、いただきますとか…」

不意にそんな事を言い出す佐野君。

私からしたら普通の事なんだけど、佐野君はもう一年以上も一人暮らしをしているから、ホントは凄く寂しいのかも知れない。

「…私でよけれは…いくらでも言ってあげる…」

自分でも信じられない位、自然とそんな言葉が口から出てしまって、私は急に恥ずかしくなってしまった。

佐野君も黙ってるし、返事に困ってるよね?

伺うように佐野君の顔を見てみると、佐野君は手にサンドイッチを持ったまま、ポカンとしていて、私は慌てて、

「あ、あはは。私ったら、何言ってるんだろ?おままごとじゃ無いんだから…」

「それ、ホント?」

「え?」

見ると佐野君は真面目な顔をしていた。

「…ヤベ、かなり嬉しいんだけど…」

片手で口を押さえ、みるみるうちに顔が赤くなる佐野君。

佐野君の意外な反応に戸惑う私。

嬉しい?佐野君…
それってどう言う事?

聞いてみようと口を開きかけた時、テーブルの端に置いてある佐野君の携帯が振動して、佐野君はそれを掴み、

「あ。兄貴からだ…」

「静さん?」

「…うん。今日迎えに来るよう頼んでたから」

…あ。今日は佐野の実家に行く日だった。
…私ったら、また忘れてた…

やっぱり間抜け…

「ごめん。ちょっと電話でる」

通話ボタンを押す佐野君。