佐野君。まだかな……

他にやる事がなく、テレビでも点けようかとテーブルのリモコンに手を伸ばしかけた時、バイクのエンジン音が近付いてきて、窓辺に近付き下を見ると、佐野君が戻って来るのが見えきて、私は窓を開けた。

エンジンを止め、バイクを降りる佐野君。

「おかえりなさい。佐野君」

思わず声をかけてしまった。

すると佐野君はヘルメットを脱いで上を見上げると、

「ただいま」

笑顔を向ける佐野君。
その笑顔に胸がキュッとなる。

表情だけで私をドキドキさせる佐野君は、なんて凄い人なんだろうと、変な感心をしてしまう私。

窓を閉めて玄関へと駆け寄り鍵を開ける。

もし私が犬だったら、御主人様が帰ってきた喜びで、耳を立て尻尾を振っているに違いない。

待ちきれなくて、ドアを開け外に出て佐野君が来るのを待つ。

佐野君が階段から上がってくると、私を見ていきなり表情を変え、慌てて駆け寄ってきて、私を部屋の中に押し込めた。

「…えっ?何?どうかしたの?」

「……なんてカッコしてんの?」

なんてカッコって言われても、佐野君のTシャツ着てるんだけど……

「何でTシャツ一枚な訳?…」

「は?いや、このTシャツ大きいし、長いから…」

「……そう言う問題じゃ無いんだけどな…」

「え?何が?ワンピースより長いよ?コレ」

「…だからって、外に出るなよ」

「…あ。ごめんなさい、御近所の目があるね、一人暮らしなのに、朝から私なんかが居ると変な目でみられちゃうね…」

迂闊だった、私なんかのせいで、御近所からそんな風に見られたりしたら、佐野君に申し訳ない。

「いや、そうじゃなくて、そんなカッコの奏を他の奴に見られたく無いんだよ、俺は。…ここって男の入居者が多い、学生用のアパートだから…」

「?…なら別に問題ないじゃない?噂好きのおばさま達が居る訳じゃないし…」

噂好きのおばさまは、ホントにしつこく家庭の事情を聞いてきたりするからな、うちも今のアパートに越して来た時に、色々と根掘り葉掘り聞かれたなぁ…

「……問題だらけだ…とにかく!そんなカッコで外出るな!わかった?」

……う。何で怒ってるの?佐野君。

「……はい。わかりました」