「…来てない?」

「うん」

何処に行ったんだ?あいつ等は。

「カケルさん、アスカちゃんのケー番知ってる?」

「…知らないよ」

「…そっか」

困ったな…

「どした?何かあったのか?」

「実は…」

手短に事情を説明すると、

「あはは。なんだ、そんな事か、だったらお前んち連れて帰ればいいじゃん?」

…は?
俺んち?

そうだよな、俺んちか。
思い付きもしなかった、ははは。
それはいい考えだ、うん。

……って。

「……無理」

「何で?」

「……理性が保てる自信がない…」

するとカケルは俺の肩にガバッと手を回し、受付のカウンターから離れて、俺の耳元で囁いた。

「…何言ってんの?チャンスじゃん、やっちゃえよ。美樹ちゃんもお前に気を使ったのかもよ?ここで決めなきゃ男じゃないよ?」

「…ダメ。酔ってる奏にそんな事したくない…」

「……ごめん茜……腐った大人の俺には、そのピュアな心は理解出来ん……でも、美樹ちゃん捕まらないんだろ?」

「……うん」

「じゃあさ、奏ちゃんは俺んちに…「うちに連れて帰る」

「……遮るなよ…」

「カケルさんちに連れてかれる位なら、うちに連れて帰るよ、じゃあね。カケルさん」

カケルの腕から離れて、出入口の扉に手をかける。

「……はは。作戦成功…」

開いた扉から外の雑踏が聞こえてきて、カケルが何やら呟いたようだけど、よく聞こえなかった。

肩越しに振り返り、カケルを見ると、何故かニヤついていた。

「何?カケルさん、何か言った?」

「いや?何も?お疲れ。茜」

「?…うん。お疲れ」

【goddess】を後にして奏を乗せたタクシーに再び乗り込む。

相変わらず奏はスヤスヤと、後部座席に横になり眠っていて、起こさないように頭を持ち上げ膝の上に乗せる。

運転手に行き先を告げると、ゆっくりとタクシーは動き出し、繁華街を抜け国道に出ると、やっとスムーズに走り出す。

「……さのくん…」

奏が小さく呟く。

「…起きた?…奏?」

膝の上の奏を見下ろしてみるけど反応はなく、それが寝言だとわかって口元が緩む。

……俺の夢見てるのか?…奏…