『おかけになった電話番号は、現在電波の届かない場所に……』
無駄に爽やかな電話口の声にため息が出る。
手早く片付けを済ませて、美樹に電話をかけるが、繋がらない。
奏を送ろうにも、美樹が居なければ何処に送っていけばいいんだ?
今日は美樹の家に泊まるんだろ?
奏の家に送っていっても一人じゃ心配だし…
「茜〜、タクシー来たぞ〜」
店の方から恭介の声がした。
「奏……奏っ…」
揺するが奏は一向に起きる気配がない。
俺は奏を抱き抱え、店に戻る。
「まだ起きないのか?奏ちゃん」
マスターが心配したように言う。
「うん。爆睡」
「はは。疲れてるんだろ?少し顔色悪いみたいだし、アルコールも入ってるから、朝まで起きないかもな?」
「……とりあえず、帰るよ。マスター、お疲れ」
「おう。お疲れ」
「茜〜♪送り狼になるなよ〜?お疲れ〜♪」
恭介の声を背中で聞きつつ店を出て、目の前に横付けされたタクシーに乗り込む。
奏を膝の上に抱き、行き先を告げる。
「…【goddess】まで行って下さい」
タクシーは【goddess】に向かい走り出す。
走ると言っても金曜の夜。
人が溢れていて、歩いた方が早いんじゃないかと思う程、ノロノロとゆっくり前に進む。
奏の規則正しい寝息を耳元で感じながら、これも悪くないな、なんて思ってしまう俺は、もはや末期である事に間違いない。
酔ってるとは言え、奏に好きだと言われ、内心、地に足が付かない程、浮かれまくっていて、タクシーの運転手とミラー越しに目が合ってしまい、ついニヤケてしまう口元を隠すように、拳をあて、咳き込む振りをする。
【goddess】に着くと、奏を一人タクシー残すのも気が引けたが、抱き抱えて店内に入る訳にもいかず、一人足早に店内に入る。
受付でカケルがボーイと話しているのを見付けて、俺がそこに近付くと、
「おっ♪茜じゃん♪なになに?ついにうちで働く気になったか?」
カケルが大袈裟に手を上げ、俺を出迎えた。
「アスカちゃんは?来てるだろ?」
俺が聞くとカケルは、
「…アスカ?来てないよ?」
「…は?」

