あたしが屋上へ続く鉄の扉を開けた時、



そのベストポジション的手すりに、ひとりの少年が寄りかかって、景色を眺めていた。







暦の上では4月も終盤にさしかかり、季節は春。それでもこの地域の夕暮れ時はまだまだ冷える。



この日、帰りのHRで返却された数学の小テストで貫禄の0点をもぎ取ったあたしは、気分転換に屋上へやって来ていた。



嫌なことがあると、よくここに来る。



ベストポジションから見える景色が、あたしたちのちっぽけな街が、



静かに、でも生き生きとその営みを続けているのを見ていると、



自分の悩み事がいかにちっぽけか、気付かされる。







今日も担任から小テストの出来について苦言を呈され、落ちた気分を払拭すべく、屋上にやって来たあたしは、



先客たる彼の背中を見て、足を止めた。



ベストポジションに先客がいるときは、そのままそっと扉を閉めて、その日は我慢するというのが、あたしの普段の行動なのだけど。



その日のあたしは、何故だか引き返さなかった。



いや、引き返せなかったのか。



彼の寂しげな背中に、あたしは釘付けになったのだ。