「魔族が人間に手を下すことは魔界では禁じられている。
その件のことが禁忌を破ったこととして魔界に知れ渡り、間もなくして100代に一度の魔力を持つ娘のことも公然の事実となった。」
一区切りついたところで斗夜くんは口を噤んだが、混乱してついていけない。理解できないことが多すぎる。
「私が100代目の魔力を持った子どもって言ってたけどそんなのありえない。」
学校で斗夜くんが見せてくれた手品みたいなことは出来ないし、不思議な力を発揮したことだってない。
「魔力はお前が16歳になったときに覚醒する。
100代まで薄められた魔族の血よりまだ人間の血が濃いんだろう。
しかし、小夜から少しずつだが魔力を感じるようになってきている。」
時は近い、と告げた。
ありえない、と思うと同時に、斗夜くんの存在や力や話、今座ってるソファだってありえないことが立て続けに起きている事実に、ありえないと一蹴するのを躊躇われる。
「お父さんとお母さんのことだって、あれは間違いなく事故だって親戚みんなが言ってるし、私もその光景を見て、覚えてる」
「事故にしては不自然なことがなかったか?
どこからともなく現れた落ちるはずのない落石、落石の大きさ以上の被害、そしてなにより、たった一人だけ無傷の状態で助け出されたのは小夜だろう?」
それは痛いほど知っている。
落石の瞬間の記憶はあるのに、その前後の記憶がない。気がついたらおじさんとおばさんの家にいた。
警察が何度もうちに来て、話を聞きに来ていたのはあの事故に不審な点があったからではなかったのか。
毎年ある親戚の集まりでは私の姿を見るなり、こそこそと話し、まるで腫れ物を扱うかのように私に接したのはあれほどの衝撃を受けながら無傷だった私を気味悪く思うが故だったのだろう。
「小夜の両親を手に掛けた者は今は魔力を失い、魔界の果てにある地を彷徨い続けている」
全てが事実なんだ、と続けた。
「わかんないよ…私には、わかんない」
受け入れる以前に理解が追いつかない。
