魔王と秘密の契約を(仮)


――魔王には、2人の息子がいた。
弟思いの優しい兄と、その兄を慕う気弱な弟だった。

2人はとても仲が良かったが、兄は魔族でありながら生まれつき魔力持っていなかったため、王位を継ぐことができなかった。

当時の王は魔力を持たない兄ではなく、弟に王位を継がせることにし、弟には王位を継ぐための厳しい試練が課されることになった。

王位継承はそれで問題ない。

しかし、残されたのは魔力を持たない息子が1人。
魔族にとってなによりも必要なのは力だ。
力を持たない者は容赦なく殺される。

王家の血を引くとはいえ、魔力を持たないことが知れ渡ったら、どうなるか分からない。

そんな兄を可哀想に思った先代の王は兄を魔界からの追放という形で逃してやった。

魔力を持たなくても生きていける、人間の世界へ。

その後、弟は無事に試練を乗り越え新しい王になったが、追放された兄は弟のことが気になって仕方なかった。
いつも自分の後ろを付いて回っていた可愛い弟が、厳しい試練を受けなければならない。


…自分に魔力がなかったために。

兄の悔しさは人間界で暮らしても晴れることはなかった。


もっと自分に力があれば、王位は自分が継ぐことになっていたはずだった。
もっと自分に力があれば、弟は厳しい試練を受けなくて済んだはずだった。
もっと自分に力があれば…


その呪縛のような兄の思いは大きな力を生み出した。


自分の子どもが、孫が、子孫が自分と同じ思いをしないように。


そんな兄の思いが100代に一度、強力な魔力を持って生まれる子どもを作り出してしまった。