魔王と秘密の契約を(仮)

なんだか目の前のことがいまいち信じられなくてただ、へぇ、と頷くことしかできない。


「少しの魔力って、普通に魔力を使ったらどのくらいの力になるの?」

「人間の一人くらい、容易いことだ。」

「……っ」


目を見開く私を見て、斗夜くんは首を傾げる。


何か変なことでも?と言いたげな顔に、なんでもない、と首を振った。


「ちょっと状況を整理したいからなにも言わないで待ってて。」

「ああ、わかった」


少し視線を落とし、今しがた目の前で起こったこと、斗夜くんが言ったことを頭の中で反芻する。


「……はぁ。」


だめだ。

こんなの、理屈で解釈できるものじゃない。

いくら考えても手から炎が上がって草は消え、手のひらには痕一つ残らないなんて論理的に説明できるわけがない。

これはこう、だと理解しなくては。
なるものは、なる。


だけど、そう考えるともっと非現実的な、非科学的なこと…つまりは、斗夜くんが人ではないってことなんだけど。
それも認めてしまわなければならなくなって、そこで思考が止まってしまう。

私が言ったとおり、黙って待っている斗夜くんを盗み見る。

…やっぱり、どう見たって人にしか見えない。


「…どっきり、とかじゃないよね?」

「小夜を騙すわけがないだろう」


そう断定されても…。