正社員Hさんの厚意で、車で家まで送ってもらうも、同じ元イジメられっ子だという彼女は社交的で明るく、とてもそんな風には見えない。
 それでも同じ過去を共有するだけに、少しだけ心を開きかけた時、再び学院長からお叱りの電話がかかってくる。

 「S君とT君のお母さんに手紙渡したって本当なの? H講師が面談でS君のお母さんからその事聞いて、私に連絡くれたのよ。一体、何を書いたの? お父さんの自殺とか? どこの高校だったとかも書いたの?」

 私が「はい」と答えると、学院長は厳しい口調でそれを「言い訳だ」と責めた。そして、詫びの手紙を書いた行為自体は認めるも、なぜ、その内容を上司に確認を取ろうとしなかったのか、あの内容では下手に動揺させるだけだと、学歴を問われても嘘をつくか、適当に話をそらせばいいのだと、私の行いを正した。
 不登校や中退がそんなに恥なのか?
 「嘘の学歴を言え」と言うなら、なぜ、面接の段階で落とそうとしなかったのか? 同情? 偽善?
 所詮、H講師は学院長の忠実なしもべでしかなかった。それはN氏も他のアルバイト講師も同じ事。私にとっては、皆、敵だ。

 度重なる塾からの電話に、また苦情だと思うとベルが怖い。自傷の回数も増えた。
 小さな事も含め、学院長から注意を受けるたび、緊張をごまかすためのタメ口も、「“うん”じゃなくて、ハイでしょ!」と、余計な怒りをかうだけで、自分が塾にとって評判を落とすだけの存在とわかっていても、辞める意志さえ言葉に出来ない。
 「もう、来なくていいって? 働くのも、いろいろ大変なんだよ。頑張りな」
 職場での悩みは家族に一切話した事はないのに、祖母の言葉は何かを知っている様子。どうやら学院長と祖母は裏で連絡をとりあっていたらしく、その電話のやりとりを偶然耳にした時は、怒りと共に「あぁ、これでまた祖母がわかったような口をきくのか」とイライラがこみ上げてきて、私はいつも以上に己の体を傷付けずにはいられなかった。