━━━自分の経験を本にしよう!
 そう思い始めたのは、いつからだろう。最初は暴露する事で復讐、それがフリースクールでの無念に、過去の引きこもり体験談ではない現役の、今の自分の生の声を、生き証としてこの世に残そうと思った。
 “現役”としての出版に拘る理由は、金や注目度ではない。今、正に苦境にいる人間とそれを乗り越えた人には前向きな姿勢にズレがあり、例えば「昔はつらかったけど、生きていればいい事あるよ」的な話も、実際うまくいったから言える事であって、その人が同じ内容を現役の時に書いていたら、もっと後ろ向きの、私達に近い表現になっていたと思う。
 先の見えない状態では、「いつか、いい事あるよ」と曖昧な希望より、「私があなたを助けます」というようなハッキリした希望の方が有効で、しかしながら、人それぞれ性格や受け止め方が違うように、こうすれば引きこもりから抜け出せるという確実な方法はない。ただ、手がかりがつかめるとすれば、まずは相手を知る事、相手の気持ちになって何を求めているかに気付く事、そして失敗から学ぶ事が大事で、私がその失敗例を語る事で、誰かが救われ、自分自身も救われるかもしれない。
 千円たらずの所持金では、コピー代はおろか応募回数も限られ、1度きりのチャンスと、コピーも取らずにA社に送ってはみたが、もし、何らかの事故で原稿を紛失、読んでもらえなかったら…と、不安だけは尽きなかった。

 一方、家族との関係は既に崩壊寸前にあり、これを再び悪化させる事件が発生。
 夕方、不意に思い出した過去のつらい記憶は、私をたちまち抑うつ状態にさせた。
 「私は生きている意味がない。誰にも愛されていない」
 狂ったように激しく泣いては、すぐに夕飯の支度など出来る状態ではなく、食事が完成した頃には、いつもより1時間以上も遅い夜の8時半をまわっていた。
 それを急いで別館に運ぶと、何も知らない2人は「遅い」と言い、続けて祖母は「あんた、遅くなってごめんくらい言えば?」と言ったが、私は終始無言のまま表情は暗く、未だ完全には抑うつから抜け出せず。日頃、感じていた2人への不満から、私は拒絶と「何で私の事、わかってくれないの?」という怒りを込め、無言のままドアをバタンと勢いよく閉めると、逃げるようにその場を後にした。