家にいても言う事を聞かないし、悪くなるだけ。「入院させよう」という話も出たが、母は頑なに拒み続け、点滴を受けさせても、今度は「血管が浮き出ないから」という理由で、医師もお手上げの状態だった。
 呆れた祖母は、「あんたがしっかりしないから、忍がこうなったんだ」と母1人を責めたが、それはどうだろう。
 祖母は新年会の席で、自分の弟達から私達の近況を問われ、「ウチには死人が2人がいる」と答えたらしい。

 2月に入り、母は1日の大半を祖母のいる別館で過ごすようになった。
 母はあの日以来、浴室での転倒がトラウマ化した様子で、その冬は2週に1度、最高3週間、風呂に入ろうとはしなかった。
 離れて生活するようになってからは、ストレスにはむしろ敏感になったようで、「おはよう」や「今日の夕飯は何?」みたいな普通の会話でも、母が隣にいるだけでイラッとした気分になる。立ったまま貧乏ゆすりして悪臭を放つ姿は、私には母を余計近寄り難い存在にさせた。
 祖母が言うには、母は私に食事を急かされる事を負担に感じ、それが原因で食べれなくなったのだという。正論と思って注意したはずが母を苦しめ、結果的には死に追いやろうとした事実に、半分納得がいかないまま、私は自分を責めずにはいられなかった。
 また、「忍が怖い」とも言っていたと聞かされ、私は母が自分の事を嫌いになったのだと、自ら距離を置く事を決める。