先に別室で看護婦に相談内容を聞かれる中で、私は早くも緊張で頭の中が真っ白になってしまった。1から順に話せばいいものを、緊張で自分でも何を言っているのかわからない状態だから、1・9・4・6…という具合に話は飛び飛び、所々が抜け落ちて、自殺願望とか肝心な事は言い忘れてしまう。
 家族構成の話では父の死因を問われ、母が代わりに答えてくれた。それによれば、やはり死因は自殺らしい。以前、行った診療所では祖母が「事故死」と答えたため、自分の中では曖昧な点があったが、これでハッキリした。
 しばし待合室で順番を待つ。
 その間、私が幼児向けの仕掛け絵本を手にしたのを見て、母は隣で「やっぱり、おかしい」と呟いた。
 名前を呼ばれ、母と共に診察室へ入ると、中にいたのは若い男性医師。私は丸い回転イスにちょこんと座ると、緊張をごまかすため、体を左右に半回転させながら、まずは挨拶。
 そして医師から一言、
 「今現在、生活しててつらいですか?」
 私は自室にこもる事で人との接触を避けていたから、“人と会うとつらいが、今は部屋にいるから平気”という意味で、「つらくないです」と答えた。
 すると、医師は意外な反応に驚いた様子で、「無理矢理連れてこられた」と言う私に、一瞬、ハハッと笑って、その場は数秒間の沈黙。

 「だったら来るなよ…」

 頭の中で声がした。なんとなく、そういう顔をしているようにも見えた。
 医師は質問を再開。不眠、人前で食べれない、調子にのってると言われた事…鈍った頭で、私はそれを説明した。
 が、どうもこの医師とは相性が悪いらしく、話の展開が望めない。「祖母が嫌い・傷付きやすい」は、話をうまく展開すれば自殺願望や抑うつを訴える事も出来たはずなのに、こちらは全く詳細を聞かれる事はなく、もう何を言ってもムダという感じ。
 母は「この子に稼いでもらわきゃ困るのに…」とそればかりで、医師も「あなたは娘さんの心とお金、どちらを心配してるんですか?」とは言ってくれなかった。