「私もね、『洋ちゃん、最近痩せたんじゃない?』なんて話してたんですけどね、この前見たら“あれっ?”と思って、『太った?』って聞いたんですよ。そしたら、『そうなのよ。実は子供の作る料理が凝っててね、それがまた美味しいからつい食べ過ぎちゃって』なんて言ってて…」
 2人ははっきり「お前のせいだ」とは言わないものの、話の内容は明らかに私の料理が原因だと責めている。
 わたしは父に続き、母まで殺そうとしたのか。
 祖母は娘の顔を見るなり溢れ出る涙は止まらず、血圧が上がるからと泣く事を禁止されてる母まで、つられて泣き出す始末。
 母は何か伝えたい様子で、口はきけず、字は書けず、それでも馴れない左手で懸命に文字を書こうとするが、ミミズ文字で解読不能。理解出来ない私達もイライラするが、それ以上に母の方がイラついてる様子が見て取れて、だから、「どうしても伝えなきゃいけない大事な事だけ」と言えば、早速、書く気でいる。そうして何とか書いたのが、“パン”と“マツのえさ”。パンはあの日、仕事帰りに母が買ってきた物で、自室に置いたまま気付かれずに腐らせてしまう事を心配したらしい。マツは飼い猫の名前で、餌がもうじき無くなるから買ってこいの意味だと、すぐにわかった。
 ちなみに、保険証と通帳の在処は、この時まだわかっていない。
 夕方、看護婦に「ヨーグルトを試してみましょうか」と言われ、私が売店で買ってくる事になった。店員に「○○をください」が言えない私は、その売店が黙って商品を出せば買える店なのか不安で、
 「嫌だ、買ってきて!!」
 祖母を頼るも、それを見ていた奥さんは、
 「子供じゃないんだから、それくらい出来るでしょ」
 …一瞬で嫌いになった。
 その後、祖母と一緒に売店へ行き、無言で商品をレジに出せば買える店と知り安心。
 早速、ヨーグルトを買って母に食べさせてみるが、よほど疲れていたのか、口の中に入れたまま寝てしまう。私はそれが気道を塞がないかと、一晩中、心配だった。