母は、前日までケロッとしていた私が週始めになると欠席や昼から登校したりするので、よく私にこんな事を言った。

 「高い金払ってんのに、そんな事やってんなら学校辞めちゃいな!!専門学校行きたいなんて、あんた、働きたくないから進学したんでしょ。そんなんじゃ働けないよ」

 母の言う“そんな事”とは、仮病の事だ。いつも「あんたは心の病気なんだよ」と言うくせに、何も知らず仮病だと決めつける。風邪をひいた時も、「熱があったって何だって、高い金払ってんだから学校行くんだよ!」と、金の事ばかり。
 私はそのたびに本当に辞めてやろうかと何度も考えた。働きたくないから進学したと思われていたなら心外だし、残り1年半、頑張れる自信もなかった。それでも、ここで辞めたらこの1年半は全てムダになり、1科目でも落とせば、さらに5万の出費が重なる。カウント数を気にしつつ、通い続けた。

 夏には授業の一環として1日保育実習が行われ、私は知人の子守で経験のあった5才児を担当に選ぶ。当日は口角だけ上向きにニコッとさせるのが精一杯で、顔全体で笑うのにはやっぱり抵抗もあった。昔から同級生に嫌われる反面、子供とおじさんには好かれる事が多く、その点は子供と一緒にいると自分は好かれていると安心出来たし、経験上、相手が子供なら普通に話せる自信はあった。
 けれど、1人相手にするのと20人相手にするのとでは違うし、目の前に話せる相手がいても、近くに苦手な人がいれば、一言も発せなくなる。この場合、苦手な人に当たるのが大人である担当保育士さんで、彼女が近くにいると、私はどうも喋りづらい。元々、極端に引っ込み思案だった事もあり、逆に子供の方から声をかけてくれないかなと、砂場で一緒になって遊んでいた時、ようやく1人の女の子が声をかけてくれた。
 そこからは早かった。教室で担当保育士から紹介されると、その後はもう引っ張りだこ。笑みも自然とこぼれて、慣れない笑顔に顔の筋肉はけいれん状態。学校側が心配していたお弁当の時間も、保育士と向かい合わせの席なら食べられなかっただろうが、子供相手なら席を囲んでも難なく食べられた。