私の通っていた専門学校では、週1回、近隣の姉妹校を提携とした特別プログラムにより、所属する学科はもちろん、他校や別の学科を受講する事が可能だった。
 その中で1学年・後期に参加を決めたのが、社会福祉科の『カウンセリング講座』で、カウンセリングについて学びたいというよりは、「そこに集まる人達なら、自分を理解してくれる人がいるかもしれない」という期待の方が大きかった。
 受講した人の多くは日頃からこの種の勉強をしている社会福祉コースの人達で、講師もなかなかの好印象。初回は恒例の自己紹介から始まり、例のごとく、挙動不審に至る。
 毎回、授業は淡々と行われ、終了時に渡されるレポートへの記入が授業の参考になる事もしばしば。
 ある日、私がそこに書いた内容がテーマとして取り上げられる事になった。
 タイトルはズバリ、

 『友達関係について』

 “自分から友達を作れない。話しかけられない”という内容に、ある生徒は「だったら、自分から話しかければいいじゃん」と安易な答えを出す。すると、すぐさま別の生徒が、
 「バカだなぁ…自分から話しかければいいって、それが出来ないから悩んでんだろ!」
 思いがけない展開に、やっと理解してくれる人が現れたと喜ぶ一方、議題の主が私だと皆にバレる不安も隠せない。福祉を志す者にイジメ経験者は多いが、人に接する仕事であるが故、そこに人嫌いの私がいる事自体が異常だった。
 やがて順番がきて、講師は皆と同じ質問を私にも問う。
 「あなたはどう? 友達を作るのに自分から声をかけられる?」
 40人近い生徒の中で、「声をかけられない」と答えたのは私1人だけだった。講師はそこに着目し、原因を探ろうと試みる。

 「じゃぁ、何で自分から話しかけられないのかな?」

 そんな風に言われたのは初めてだった。それまで親や周囲の大人達は「だったら、自分から話しかけるよう努力しなさい」と、人事のようにあしらうだけで、理由を聞こうとする者など誰もいなかった。
 小さな声で「今まで人に嫌われる事が多かったから、皆に嫌われてるようにしか思えない。そう思い込んでる所があるから…」と答えると、講師はそれを皆に聞こえる声で通訳してくれた。