本当は大声で泣いて暴れたくても、あとで冷静になった時の事を考えると、声を押し殺して泣くしかなかった。
 それでもこの苦しみから逃れたくて、自傷行為を考える。人が1番意識を集中させやすいのが“痛み”なのだ。痛いと感じる間は、頭の中のモヤモヤから意識をそらす事が出来る。永久に解放されるなら、例え死んだってかまわない…
 気がつくと、3階窓から身を乗り出していた。
 ━━━ここから飛び降りて頭を強く打てば、スッキリするんじゃないだろうか?
 血を想像すると、何だかワクワクしてしょうがなかった。
 壁に頭を何度も叩きつけては、無意識に手加減してしまい、その夜はいつしか泣き疲れて眠りについた。

 2日目。今更ながら、別館の存在を知る。昨夜、あれほど探した『桔梗の部屋』は、別館にある事を知った。
 朝食の時間は部屋にこもり、宿から短大へ向かうバスは私だけ助手席。早めに乗って席を確保すれば良かったのだが、後半に乗り込んで空いた席に座ろうとしたら、「そこは他の人が座るからダメ」と拒絶された。昼は、教室での寝たふりと校外に出る事で食事を逃れ、夕食は再び部屋に閉じこもる。
 担任はこの時、初めて私が人前で食べれない事を知り、困って家に電話したらしい。それで、親戚が来るといつも自室で食べていた事でも聞いたのか、この日の夕食はわざわざ部屋まで運んできてくれた。とはいえ、担任にこれで私の事をわかった気になられても困るし、私も素直じゃないから、その日は半分だけ食事を食べた。
 3泊4日、計8回の食事のうち、口にしたのはこの1食だけ。他は1日あたり缶の麦茶4本で、尿はほとんど出なかった。

 3日目の夜は、当初の予定通り短大主催のパーティーが宿泊先とは別のホテルで行われ、私も会場に着席せざるを得ない。食事はバイキング形式で、その食欲丸出しの行為に顔を伏せて寝たふりするも、担任は何度も食べるよう説得に現れ、短大側の講師群もそれを不思議そうに眺めていた。
 途中、誰かが飲み物を運んで来てくれた事で多少の時間潰しにはなったが、酔った生徒らがカラオケを始めるとただもううるさいだけで、私は耳栓をし、伏せた顔の隙間から彼女達を睨むように、その3時間をどうにか耐えぬいた。

 この事で学校側からは休学による治療を勧められるが、私は学業優先を選択する。