高3に進級し、圭子とクラスが分かれた事で、私はようやく平穏な日々を取り戻す事が出来た。里奈を独り占め出来るのが嬉しくて、孤立していた日々を埋めるかのように、私はよく喋り笑った。
 だが、あるちょっとした嫌がらせが完全孤独を引き起こす。キッカケは、あの「調子にのってる」だった。靴の中に連日噛み終えたガムが放置される事件が発生した時、私はその言葉を思い出した。そして、里奈との会話に夢中で、自分は皆と同じように笑ったり喋ったりしてはいけなかった事を反省し、誰かが今の私を見て“調子にのってる”と判断したんだと、里奈とはしばらく距離を置く事にした。
 すると、ガムの嫌がらせはピタリとやみ、様子を見ながら出欠席を繰り返してうちに、今度は里奈を中山・大村コンビに奪われ、結果、完全に孤立してしまう。
 里奈はまたしても平然と私の元を去り、中山は自分のものとばかりにガードして、朝の登校から始まり、昼食・休み時間のトイレ・下校するまで常に一緒。声をかけるすきも与えない。席替えも目が悪い事を口実に、友達と示し合わせて前の方の席に立候補する者はいるが、私だって時々メガネをかけていると知っているはずなのに、中山は私を友達だというわりには、1人誘ってもらえなかった。
 その違いを言葉で表すなら、
 里奈=友達
 私=相手がいない時の間に合わせ的存在
 …といった感じで、たった1人の友を奪った女も、私を捨ててその女の元へ走った親友も、全てが憎く、遠い存在に感じた。
 里奈が私の元へ戻ってきた時も、あっちがダメならこっち…と自分が彼女にとって都合のいい存在に思えて、中山達と仲直りすればまた平気で私を捨てるであろう彼女の、そのいい加減さが許せない。
 それでも本当は嬉しいくせに、心のどこかで里奈は私を友達とは思っていないんじゃないかという不安があって、

 「私はあなたの何? 一緒にいていいの?」

 そんな風に、相手の気持ちを確認したくなる。
 だが、実際はハッキリ聞けないから、いつまでも友達相手に遠慮気味な行動ばかりして、「一緒に○○しよう」と口約束なしでは、登下校も昼食も友達なのに全ての行動を共に出来ない。
 中山から「里奈は私達といるのが嫌なのでは?」と相談され、私は里奈を試そうと本心とは逆の言葉を口にした。
 「戻りたければ、戻れば?」