12月、マラソン大会は完走したものの、練習中に大量のマメを発症。複数の、それも同じ所を重ねて5回も皮をむいた足裏は、本番まで連日血に染まり、その後行われた追走は走る事が出来なかった。
 その事を体育教師に報告せず、無断で追走をサボったのは、彼の外見への恐怖と、自分から話しかけられない不安から。例の名前事件で出席してるのに欠席扱いも数件あり、その分、本来は走らなくていい追走が2回分プラスされていた事も理由に含まれていた。
 当然、呼び出しをくらう。
 「お前、追走走んなきゃダメだろ。走らないつもりか?」
 「うん」
 「じゃぁ、言いに来ないとダメだろ。…じゃないと、赤点になるぞ。いいのか!」
 「いい」
 私は緊張をごまかすため、わざとタメ口で答えた。赤点なんて別にどうでもよかったし、脅しにこびる気もなかった。
 だが、彼にしてみれば予想外の反応だったのだろう。親切心を踏みにじられ、彼はついにキレてしまう。
 「んあ゛!?」
 1度表に飛び出した恐怖は、簡単にぬぐい去る事は出来ない。さっきまで強がっていたのが嘘のように私は急に弱気になって、涙と恐怖で言いたい事は何も言えぬまま、それでもどうにか足の事だけ伝えると退室を許された。
 1人になった途端、私は妙な衝動にかられた。
 ━━━ここから飛び降りたい…
 泣きながら、コンクリート製の地面を見下ろす。飛び降りした後の光景を頭の中でシュミレーションしていた。…生徒の悲鳴にかけつける教師。血だらけの教え子を抱え起こす瞬間、私は目をカッと見開いて、不気味な笑みを浮かべながら彼の頬を血で染める。そして一言、「あんたのせいよ」。
 大人になった今じゃ当たり前になった、反論・注意されると己の体を傷付けたくなる衝動は、この時が初めてだったかもしれない。傷だらけの体を相手に見せる事、それが私にとっての復讐だった。
 けれど、この頃はまだ実際に傷付ける勇気はなくて、中学の時も峯山に包丁を突き刺し笑う自分を想像しては、卒業写真をナイフで切り裂く程度の小さな復讐で毎度すっきりしないモヤモヤをため込んでいた。
 それは今回も例外ではなく、私はただ誰もいない海で暗くなるまで泣き続けた。