4月、予定通り完全復帰。担任を含めメンバー全員そのままでの再スタートだった。
 修学旅行は学年でただ1人参加を拒み、これまでの出席日数の関係から、3日間、職員室へ通う事で出席が認められる。
 そんな私と入れ替わるように、石川・鈴木の男子2名と加代が次々と教室から姿を消した。
 私も最初のうちはちらほら休みはしたが、加代は交際相手をコロコロ変えては夜遊びと相変わらずの荒れ様で、なくしたと思っていたノートも、お気に入りの赤いブラシも、彼女の机の中から発見された。それに気付かない振りをしていれば、いつまでたっても返す気配がない。
 逆に別の事件では、私の方が犯人扱いされた。同じクラスの美優の友達が、間違って私の机に自分達の交換日記を入れてしまい、それを後ろの席の加代は確かに見たと証言したのだが、事実、日記は入っておらず、家に持ち帰った形跡もなかった。その事で私は美優から疑われ、加代の盗み癖を知らない彼女は、すっかり加代と意気投合したのである。
 担任の峯山はそんな彼女を平手打ちし、号泣する友を前に、私は心の中で笑った。

 部活は新入部員もなく、2年の時から私1人でやっていたようなものだ。もう1人の部員である里奈はやる気がなく、他人の作品を本から丸写ししてくる始末で、仕方がないから彼女の詩は私が考え、それを原稿用紙に書かせる事で、顧問の目をごまかしていた。
 それは私にとって苦ではなかったが、自分1人で完成させた達成感の反面、彼女がついた嘘に対するショックも大きかった。
 …文集〆切直前、顧問の呼びかけに、里奈は私達の共通の友人・千秋と共に現れた。
 「里奈!!」
 おもわず口にした言葉は、“呼び捨て”という密かな憧れ。
 気付けば、それまで普通に口にしていた「お母さん・里奈ちゃん」という言葉が、もう何十年も互いの名を呼び合っていない熟年夫婦のように、なにか照れくさい。「里奈ちゃん」と親愛を込めて呼んだ小学校時代と今とでは、名を呼ぶ事に抵抗を感じる一種の距離がある。
 それでも「里奈」と呼び捨てしたのは、期待と、昔の私達とは違う変化の証。
 だが、その場は急に静まり返り、言った自分をすぐに後悔する。