③児島のおばさんの場合

 彼女は、死んだ父の実姉にあたる人物だ。旧姓は古田で、児島家・古田家とは親戚関係にある事から、幼少期は比較的近い児島家との交流が盛んだった。
 父の死後、交流は一時途絶えたが、小5の時、児島家だか古田家のおばぁさんが亡くなったのを機に、再び両家の交流が始まる。それは長年音信不通だった両家が互いの距離を埋め合うかのようで、頻繁に会ったり泊まったりしては、父の死が忘れられたかに思えた。
 だが、私はそんな彼女らに不満を持っていた。
 祖母の話によれば、母は見合いで父と知り合い、「タバコも酒もやらない人」と、嘘の説明を受けたらしい。そうして結婚し、多額の借金を残して死なれ、はたして彼女に責任はないと言い切れるだろうか? 「忍!!」と呼び捨てされるたび、その罪を償い終えたかのような傲慢な態度が許せない。
 不登校中も勝手に部屋に入って来て、

「忍、お前はお母さんやおばあちゃんが一生懸命働いてるのに、お前だけこんな所でコタツに入ってテレビ見てていいのか!」

 自殺を考えるほど追い詰められ、家に避難している。それが悪い事なのだろうか。
 私にはそれが「学校に行け。学校でイジメられて死んでしまえ」の意味に聞こえた。
 以来、彼女を筆頭に親戚全体を無差別に嫌い、児島家に至ってはその恐怖から来客のたびに大声で泣き叫ぶようになる。