そうやって表向き素直で良い子を演じるように、花を好きと知れば自分は興味もないのに花の話題にふれ、クラス目標が『挑戦』だと知れば、
 「これからは、何事にも挑戦しようと思います」
 交通安全委員会の顧問だからと、交通安全について紙面上で熱く語り、坂本九が好きだと耳にすれば、「“上を向いて歩こう”という言葉が好きです」と書いて、一方は相手に話を合わせるだけ、もう一方はコチラが故意に話を合わせている事に気付かない、意味のない言葉のキャッチボールを繰り返していた。
 『上を向いて歩こう』については、わざわざ歌詞まで調べたようで、私が久々に登校した際には帰りのホームルームでいきなり歌いだし、のちにそれが私のために歌ったと知った時は、何も知らない彼がひどく滑稽で、当然、歌に込めた想いは当人に届くはずもなかった。
 それでも全部が全部ウソではなく、本音も少しは書いたが、元々、考え方の違いもあり、肝心な事に関しては私が望むような返信は得られず、読むたびにイライラは増すばかり…。
 加代は毎朝当たり前のようにやって来ては、寝ている私の横で電気をつけ、テレビや音楽を大音量で聴き、机やゴミ箱を興味本位であさっては、大事にしていたシールも何の断りもなく使ってしまう。昼になれば昼食をねだるし、「重いから」と我が家をロッカー代わりに教科書を放置して、その教科書があるがために、いや、なかったとしても、持ち前のずうずうしさを武器に彼女はどんどん私の中に入ってくる。
 そのイラ立ちをすぐさま母を通して担任へ訴えても、母の説明が悪いのか、峯山の理解がたりないのか、毎度、重心のズレた回答しか得られない。
 「机の中のお菓子を勝手に食べないでと言える勇気を持ちましょう」
 物事の核心を無視した対応に、これでプロの教師なのかと怒りさえ込み上げてくる。
 それでも加代は私にとって必要な存在で、塾だ何だと放置気味な里奈よりよっぽど信頼でき、気も合って、彼女も母親との関係に悩み「帰りたくない」と漏らした時は、こんな私でも頼りになればと家に泊めたが、家族は反対こそしなかったものの、母は一目見るなり「あんまり良さそうな子じゃないね」と呟いた。