病院へはいつしか行かなくなり、2年から通い始めた児童相談所も、ありもしない監視カメラを妄想、気の合わない相談員とのやり取り、そこで話した事が学校にも伝わってるかと思うと、峯山の仲間は私にとって全て敵だと、そこにもやはり行かなくなった。
 気紛れで学校へ行っても、加代がいる事で1年の時ほど辛くはないが、けして居心地が良いとか安心出来る環境とは言えなかったし、人前で食べるのは相変わらず苦手で、給食の時間になると何度か学校を抜け出した。その日も初めは昼食だけ家で済ませるはずだったが、1年の時、同様の騒ぎを起こして叱られた事が、一度逃げたら戻れないという教訓になっていた。
 と、そこに加代が迎えに現れ、拒む私をしつこく追いかけまわす。
 「昼休みに戻ってくるって言ったじゃん!」
 裸足のまま家を飛び出し、台所裏のガスボンベの横で私は身を小さくして震えていた。家の中をバタバタと私を捜して走りまわる、その足音がとてつもなく怖かった。
 今考えてみると、私が加代を必要としたのと同じように、彼女もまた私を必要としていたのかもしれない。
 それから少しして、彼女は毎朝私の元へ顔を出すようになった。
 「今日はどう?学校行ける?」
 それは心配してるというより、期待に近い。
 私も最初は素直に嬉しかったが、回を重ね、本心が見えてくると、迷惑としか考えられなくなった。加代は自分が学校をサボるための居場所として、私を利用するようになったのだ。
 峯山はそんなイラ立ちを「忍の事を心配してるんだよ」と、軽く流した。

 ある日、加代が峯山から預かったという一冊のノートを持ってきた。それは担任である彼が「忍の気持ちを知りたい。文芸部なら字を書くのが好きだろう」と考案した交換日記で、生徒が郵便屋代わりに受け渡しを担当するという。日記は強制的ではなく、「書いてくれたら嬉しいな」といった感じで、私は軽い気持ちから始める事にした。
 峯山からは主に私の書き込みに対する返信と、いつでも学校へ来れるように時間割、私の方はその日の出来事や体調・詩など、お互いその時思った事を書いた。
 だが、私が日記に書いたのはほとんどが嘘で、はなから大人を信用していなかったか、ただ彼に反発したかったのかもしれない。