その視線が怖くて、私は屋上近くの踊り場に身を潜めた。1時間がやけに長く感じて、途中、何度も教室に戻ろうと3階まで下りてきては、また隠れるを繰り返した。
 すると、急に辺りが騒付き始める。
 「保健室にはいない」
 「靴はあるから、校内にいるはずだ」
 と、私の事で大騒ぎになっているではないか。
 私は余計戻りにくくなって、それでもチャイムが鳴ると同時に勇気を出して教室へと入って行った。
 内心、この中に1人でも飛び降り自殺を疑って、私への態度を改める者がいれば…と期待していたが、教師は私がいなくなる直前、トイレ前の廊下をうろついてたと聞き、生理か何かで家に帰ったと考えていたらしい。生徒の方も何ら危機感はなかったようで、「どこ行ってたの? 先生に言われて捜したんだよ」と自主的に捜したわけでもなければ、誰も「心配した」とは言ってくれなかった。

 里奈とは中学生になってからも友達関係は続いていたが、部活は同じものの、「塾があるから」とほとんど相手にされず、そんな時、私は千波に声をかけられる。
 「ねぇ、これから遊ばない?」
 私は彼女が同学年である以外何も知らなかったが、中学に入ってからというもの、登下校中のパートナーは自分の影だけと極端に寂しかった事もあり、初対面の彼女相手にそれを二つ返事で受け入れた。
 これは後で知った事だが、彼女はいわゆる“不良”だったらしい。
 私は帰りに珠算塾に寄ろうと、筆記用具持参で彼女の家へ向かった。そこは私の家より遙かに古く、トタン小屋のような家で、私服も誰かのおさがりだと言う彼女に、私は自分より下の人間だと妙に安心して、残金も残り少なかったが、私のおごりで壁打ちにもチャレンジした。
 休憩中の彼女が言った。
 「うまいじゃん。スゴイね」
 私はその言葉を真に受け、1人テニスに没頭。遊ぶのに夢中で塾をサボる。
 異変に気付いたのは、翌日曜の事だった。昨日、手さげに入れたはずの筆記用具が見当たらない。
 ━━━学校に置き忘れた?
 いや、そんなはずはない。千波の目の前で、テニスコートのベンチでそれを確認している。
 ━━━じゃあ、千波に取られた!?
 まさか、そんなの有り得ない。彼女は友達だ。友達はそんな事するわけがない!!