初めから叶わぬ恋だとわかっていたはずなのに、気持ちの上ではもう昨日までと全く同じというわけにはいかないのだと、寂しくて涙が出た。里奈が私より別の友達を優先したように、和哉が私より麻美を優先する日が来るだろう。私はいずれ捨てられる…
 だから、翌朝「ケンカ別れした」とメールが届いた時は、本人には悪いけど少しホッとした。
 バレンタイン直前の出来事に、彼はひどい落ち込み様。励ます振りをして、さりげなく自身をアピールしてはみたが、「恋はもう懲り懲りだ」と言う彼に一切その気はなく、彼氏候補4人とは対面日時が決定。
 ところが、恋は思わぬ急展開を迎え、
 「愛のこもったチョコが欲しい」
 「愛をどう表現すればいいのか…手作りはおろか、チョコをあげた事もないし、金がないから高いチョコは無理。態度で示すとか? 例えば、抱きしめるとか?」
 半ば冗談で言った事が実現する事になってしまった。それもウブな私を考慮して、彼から私への抱擁である。
 バレンタインの夜、密室に男女が1組。自称『友達』の2人は、あとで抱き合う事が決まっている。2人きりで会うのも初めてなら、メール以外、まともに話した事もなかった。頬を赤らめ、覗けばすぐ顔を反らして目をつむろうとする私に、彼は面白がって何度も顔を覗き込んでは「カワイイ」と、部屋中に貼った星型の蛍光シールに暗闇を演出しながら、いよいよ高まるムードに、日付が変わる頃、その時は訪れた。
 「あぁ、ホッとする…」
 後ろから強く弱く抱きしめられるたび、私の胸は高鳴りを増す。今の彼に私への恋愛感情がなかったとしても、ずっとこうして誰かに抱きしめてほしかった。
 不意に「キスしようか?」と、舌を入れられ戸惑う私。
 「彼氏候補と会うの?会ってほしくないな…俺がいるじゃん」
 なぜ? どうして? 昨日まで全くその気がなかったのに…
 彼は2人きりで会う事で、それまで見えなかった私の良さに気付いたという。一緒にいて、落ちつく人…彼の理想の恋人像は、私そのものだった。
 そうなると、Hが怖い。同性でも一緒に風呂に入れないような女だ。男に裸を、それもあんなグロい物を見せるなど、私には絶対出来そうもない。