授業を早めに切り上げ、自費で購入した駄菓子に手作り紙芝居…と、子供達の笑顔見たさに独断で開いたクリスマス会。休み時間のハムスター遊びから、1人バスの違う女児に待ち時間を付き添いながら黒板でのビンゴと、信念の赴くまま、勝手気ままな行動をとっては、隣の教室でそれを真似たとみられる中学生を叱る学院長の姿に、遠目に睨みをきかせながら、腕の傷を見せつけるように出勤する。
 その目的はただ1つ、“誰にも何の文句も言わせない”。
 傷は私の心のナイフだった。これがあれば、何か言われて傷付く前に相手の言動を阻止できる。今はただ、学院長との接触を避けたい、それだけなのだ。
 家の電話は24時間、ワンコールですぐ留守電に切り替わるよう、セットした。
 孤独を紛らすための伝言ダイヤルは、卑猥な作られたキャラクターから、「本当のあなたが知りたい」と1人の中年男性の出現で、家族にはない無償の愛を知った。金を出しても、話が聞きたいという男性。私は心のモヤモヤを1つずつ彼に吐き出していく。
 やがて、伝言では満たされなくなると、今度はネットの世界に手を伸ばし、年明け早々、自費でLモードを購入。すぐさま出会い系サイトに登録し、家の電話はますます繋がりにくく、メールに夢中で遅刻は頻繁にと、最早、塾には厄介者となる。

 解雇通告さえなかった…

 最後の方はもう仲間外れ同然で、冬期講習の担当変更も私1人だけ何も知らされていなかったし、クビになる2ヶ月前には教室に謎の女性が現れるなど、今思えば彼女は私の代用講師で、それ以前に担当を外されていたのかもしれない。
 とはいえ、私も留守電&腕の傷で相手が何も言えない状況を作っていたわけだし、誰だって「クビ」とは言いづらいもの。
 だから、担当が一斉に変わる3月に「とりあえず、来週から担当は入っていないので…」と事務員に言われた時は、“とりあえず”という言葉に待機を命じられたのだと思い、解雇された事に気付くまで半年もかかった。