「わたし、すっごく幸せ。世界中の誰よりもすっごく」


そう幸せを噛み締めているわたしに哲くんがクスっと笑う。


「どうしたの?」


「いや。思い出し笑い。花火の願い事が叶ったなって思ったんだ」


花火な願い事?


何の話だろうと思うと哲くんがわたしの頭をポンと撫でた。


「覚えてない?みんなで軽井沢に行ったときにやった花火の」


軽井沢、花火…


その単語ですぐに思い出した。


みんなでやった線香花火。


最後まで火種が残った人の願い事が叶うという願掛けをしてやった花火。


結局、あのとき最後まで火種が残った哲くんの願い事は由香里さんだけに伝わり、わたしには教えてもらえなかった。


「ねぇ。どんな願い事したの?」


「んー、どっしようかなぁ?言おうかなぁ?」


「教えてよ。ねっ?」


そうお願いすると哲くんはわたしの身体を思いっきり引きつけ力強く抱きしめた。


そして耳元で囁いた。


「唯が幸せになりますように、って」


哲くんの願い事。


それは今叶ったんじゃない。


とっくの昔に叶っているよ。


哲くんに恋に落ちた瞬間から、


貴方に出会えたときからずっと、ずっと、


幸せなんです。



【彼とあの日の願い事】 完