「あー、手、すごい擦り剥けてる」
転がった物を拾いながら
こちらへと戻ってきた彼は、
僕を助け起こし、掴んだ手を見て言った。
「転んだ時は手をつけって言うから」
小さい頃は何度も、大人だけではなく彼に
外で遊ぶたびに何度も言い聞かせられた。
「だってお前、頭から転ぶじゃん」
他には怪我無いな。と、
僕の顔を確認して息をついた。
「転ぶような事させなきゃいいんだよ」
今だって、彼が逃げなければ
僕は転びなんてしていなかったはずだ。
「ん、……ゴメン」
さっき手を振った時と同じ、
見た事も無いような顔で、彼は僕に謝る。
「鞄、持ってよ」
今度は彼に2つとも押し付ける。
すると黙ってそれを受け取って歩き出す。
今度は走らず、ゆっくりと。



