「長塚…」
俺はゆっくり長塚のもとへと歩いていく。
「笹岡君、…何で…」
長塚は、俺を殴った手を持ちガタガタと震わせながら俺を見上げる。
「長塚…ごめんな?」
「っ、どして、謝るのっ…?」
「俺…長塚のこと傷つけてばっかりだな」
そうだ。
俺は人を傷つけてばかり。
長塚にサッカー部のマネを頼んだのも俺だ。きっと、相当辛かったと思う。
マネはすぐやめていく。その中でただ一人。長塚だけは本当にしっかり働いていたと思うから。
「俺が悪いんだ、全部。俺に何してくれてもいい。どんな嫌がらせだって、全部おとなしく受ける」
だけど。
…だけど、傷つけてほしくない人はいる。
すごく勝手なワガママだけど。ただの、俺の自己中な思いなのだけれど。
「…だけど、頼む。高橋には、もう…手を出さないでやって…?」
俺を唖然とした表情で見つめる長塚。
あぁ、俺はなんて勝手な人間なんだろうか。
どれだけ、人を傷つければ気が済むんだろう。
「笹岡…君?」
「辛いなら、部活だって辞めてくれて構わない。全部俺のせいにしてくれても、全然構わない」
それでも、守りたいものがあるんだ。
誰かを傷つけてまでも、守りたい人がいるんだ。
俺は呟く。
「でも……、こいつにだけは何にもするな。…大事なんだ。何よりも…」
長塚の反応がなくなった。
きっともう何がなんだか分かっていないのだと、そう思う。
きっと、これ以上俺達がここにいても長塚は辛いだけ…だろうな。
そう思った俺は、高橋の腕を引っ張った。
「…行くぞ」
握った高橋の腕は思っていた以上に細くて、俺がもうちょっと力を入れれば、折れてしまいそうなくらい細かった。
もう、離したくないと俺の手が訴えてる。

