「…、諦めるから…」


静まりかえった廊下。
そこには、あたしと長塚さんの二人だけしかいない。

そんなシーンとした場所に、あたしの言葉がポツ…と響き渡る。



「諦める?…好きってもう思わないでいてくれるの?」

「…もう叫心には、つきまとわないし…好きって言わない」


あたしがそう言うと、長塚さんは勝ち誇ったように甲高い声を上げて笑い出す。


「ははっ、最初からそうしとけばよかったのよ。望みもない恋に走って…バッカみたい!」


バンっと、長塚さんは壁を激しく叩く。


「だけど、だけど…」


と、まだ続くあたしの言葉に首をかしげ眉間にシワを寄せる長塚さん。



「好きだと思わないことは、無理。絶対に、無理なの」



そう。あたしは叫心が好き。
その気持ちは全く偽りのない、綺麗なものなの。

叫心を好きでもなんとも思わないなんて、そんな器用なことあたしには出来ない。


あたしは、側にいれなくても。会話を交わせなくても。



ただ、ずっと好きでいたいの。




案の定、長塚さんはあたしのその発言を聞いておさまっていた怒りが再び盛り返していたようだ。



「やめてよ、やめて!お願いだから、もう邪魔しないでよっ…!」


バシバシと、何回も何回も。
持っている教科書をあたしに投げつけてくる。



長塚さんの瞳には、大粒の涙が溢れていた。




ねぇ、叫心。
好きでいちゃいけない?

あたし、叫心を諦めなくちゃ…だめかなぁ…?



こんなときでも、思い浮かんでしまう叫心の笑顔。そして同時に、無理だと分かっていても、助けをその笑顔に求めてしまう。




叫心っ……!!