グランドが近付いてきて、段々その愛しい姿が見え始める。
叫心…!!!
見えた愛しい姿にあたしの心は落ち着き、嬉しくなってグランドに向かって走ろうとした。
その時だった。
「…笹岡君…」
聞こえたのは、
可愛らしく少し高めの女の子の声。
この声は聞いた事がある。忘れるハズがない。
あの、長塚理恵の声なのだから…。
「…え…?」
どうして?
どうしてそこに貴方がいるの?
2人で何をしてるの…?
「…長塚…?」
長塚さんの後に続くかのように…微かに、叫心の掠れるような声も聞こえてくる。
「笹岡君…、あたし…」
グランドに近付いていくうちに、はっきりと見えてくる姿。
あたしは息を殺して近付く。
「好きなの…」
その言葉と同時に見えたその景色は
あたしの明るかった華やかな世界を、一気に真っ暗な暗闇へと引き落とした。
見えたものは
立ち尽くす叫心にギュッと抱き着く長塚さん。
叫心の表情はこちらからは分からない。
でも、今は分かりたくない。
叫心は喜んでいるのだろうか?
見えないその向こう側では、あたしに見せないあの笑顔で笑っているのだろうか?
たとえ2人がそういう関係になったらなんて、考えたくない。
叫心を誰にもとられたくない。
どうしても認められない自分がいる。
他の誰かを想う叫心なんか、見たくない。
あたしの胸は、激しく脈を打つ。
息苦しくなって、胸が熱くなって…その場に立っていられなくなって。
あたしは、無我夢中で思いきり走った。