もう寒い時期なので、日が暮れるのが早い。
部活終了の時刻は、どのクラブも共通で同じなのだけれど、俺らサッカー部はボールが見えなくなったら、と勝手に終了時刻を変えている。

そして、とうとう今日もボールが見えなくなったので、終了合図の笛をマネージャーの長塚が鳴らす。



「きょーしーん!おっつー!!」


笛の合図と共に俺に抱きついてくる真実。

「おい、やめろって!」

今日は麗奈が待っててくれる日。こんなとこ見せたら、絶対麗奈に勘違いさせてしまう…!

そう思った俺は、慌てて真実を自分から引き剥がす。

そして、麗奈を安心させようと思い、いつも麗奈が応援している場所へと目を向ける。


「……あれ…?」


いつもいる場所に。
彼女は、いなかった。


いつもなら、俺に向かって大きく名前を呼びながら手を振っていてくれてる麗奈が、そこにはいなかった。


いつの間に、帰ってしまっていたのだろうか。



「叫心?何、見てるの?」


真実にそう聞かれるのだけれど、俺の耳に右から入って左へと流されていく。

麗奈のことしか、今は考えられない。



まず、俺に黙って帰るということが信じられなかった。いつもなら、携帯にメールが………


「あ!」


そうだ!そうだ、そうだ!
俺、練習中で携帯持ってなかった!きっと、今頃メール来てるにちがいない!


「ちょっと、叫心?一人漫才?」

「んなわけねーだろ!ちょ、俺…急ぐから!」



まだしつこく付きまとおうとする真実を俺は振り切り、足早に部室へと向かった。