『覚醒って・・・どういうものなの?』
長女のアンネがさらにシモンに問いただした。
『・・・わからない・・・ただやつらが言うには人の能力を遙かに越えた存在だと言っていた。・・・もしかしたら人とは似ても似つかないバケモノになるかもしれないな・・・』
『バケモノ・・・』次女のサンティがそう呟く。
一同は落胆の顔を見せていた。我々は自分たちを人と違う存在だということを認めたくはなかった。しばらく沈黙が続いた後、アンデレが呟いた。
『なぜ・・・・・・なぜ僕たちは生まれてきたんだろう・・・』
『闘うためさ・・・当然だろう・・・だから毎日人を殺すための訓練をしているんだ。俺たちに人権なんて存在しない。人じゃないんだ…』
無表情のマタイはそう答えた。
『…・・・そんなのやだよ・・・だって・・・私達だって人と同じように、暮らして、食事をして、時には恋だって・・・』
サンティは、悲しそうなその瞳に涙を浮かべながらそう言った。
『サンティは僕達に恋ができると思っているのか?人とは違う僕たちに。今までもそうだったであろう?』
マタイは冷たいその目でサンティを見つめてそう言った。
『私は恋だってできると思う。実際、私にも愛する人がいるもの。』
涙が零れるほど溢れているサンティの肩を抱きかかえながらアンネは言った。
『そんな事を話し合ってもらちがあかない。今、僕たちができることを精一杯、やろうじゃないか。恋だってできるかもしれない・・・。もしかしたら、覚醒なんて起きずに生涯を終えるかもしれない。まだ誰にも覚醒が起きてないんだ。やつらの考えだって完璧じゃないはずだ。』
我々をまとめるシモンが言う。
我々は誰もが求めている。いや、これは人が願う事と、なんら変わりはないだろう。
欺される事も、飢えて死ぬ事も、憎しみ合うことも、殺しあう事も、もう僕たちは欲しくない。ただ、ただ誰もが幸せに暮らせる、優しい世界が欲しいだけなんだ。
そんなことを思いながら僕はその場で一言も言葉を交わさず、ただそんなやり取りをぼんやりと見つめていた。