幸いにも警察に突き出されることはなかった。店のキャストだと知られたら、店自体も調べられてしまうからであろう。

歌舞伎町の早朝はこんな薄汚い僕みたいに塞ぎこんでいるものも良く見かける。ホスト狂いで酔い潰れた女、新人ホストが犬にされて酒に溺れさせられ、酔い潰れて放置されていたりとか。とにかく腕の注射針の痕さえ隠れていれば怪しまれることはなかった。
躰の痛みが和らいだ頃には昼を廻っていた。

人の欲には際限がないと言われている。

今手にしているものよりももっと素晴らしいものがあるのではないか。それを手に入れたいと…

人は都合のよい言葉でそれを、向上心と呼ぶ。プラスのベクトルに向かえば、それは、人類の大いなる進化への懸け橋となるだろう。

しかしマイナスのベクトルに向かってしまえばそれは、破滅と絶望を引き起こす、大きな糧となるだろう。


風の噂では…今、光条と光条の店舗は歌舞伎町から消え去ったと聞く。僕との出逢いが光条の向上心をマイナスのベクトルへと向かう向上心へと変えてしまったのだろう。