「桜。いっぱい」
「うん、」
ほら、桜の中に迷い込むと言葉数が減ってしまう。
いつもの二人ならばつまらないギャグを挟み喧しくお喋りをしているのに。
それでも良かった。
寝転んで手を繋いで同じものを見られる今、とくに会話は必要なかった。
桜に狂わされた結衣はキスをしてほしいと思いながら、真昼の中で来年の今を夢に見る。
花びらがまつ毛に乗っかったことさえ気にしなかった。
子供たちが走り回る足音が地面を大袈裟に鳴らし、若者たちの雑談による爆笑が空気を大胆に揺らす。
もちろん彼氏は黙って愛を伝える。
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