桜色を覚えた絵


撮ってやる、そう言ってすぐにレンズを結衣に向けた彼氏は知らない。

これから先の将来を描くことも大切だけれど、彼と居る今が過去になるなら、結衣は昔を反芻することさえも趣味になる。

だから一瞬一瞬の今を忘れたくないから自分という人間は必死になって体の中で覚えるのだ。

十年後、二十年後、大人になった自分がいつでも十年前、二十年前の洋平を思い出せるようにと。


それが彼女は馬鹿なせいで写真やビデオでおさめたら済む発想が浮かばず、

頑張って頑張って瞳の中や頭の中、耳の中や口の中、鼻の中や皮膚の中、――心の中、体いっぱい使って覚えておくしかできない。

何もない結衣はこの体ですべてを吸収するだけが恋の理由になっている。


「も一枚、笑って」