みの袋を置いて、黙って歩き出した。
何かに追われているように。
奥さんは、サンダルをはいて、
ごみの袋を重そうに持つと、大きく
ため息をついて、一つ先のカド、
ごみの集めてある場所に運んで
行く。
歩くのが、つらそう。
私は、少しずつ体が冷えていくのを
感じた。
この前、雨にぬれた時と逆で、
体の中から、冷えて来るみたい。
奥さんは、自分の家の玄関に歩く
途中、足をとめて、両手で顔を
隠した。―――でも、すぐに
手のこうで目をふいて、戻っていく。
「―――袋の口をちゃんと結んである?
ご近所の方から、苦情が来ますよ」
あの女の人は、玄関の前で、待っていた。
「はい、お母さん、大丈夫です」
そう言って、奥さんは、中に入って
ドアを閉めた。
―――今から、あの奥さんは、夫の
お母さんと二人で一日すごすんだ。
どんなに長い時間なんだろう。
私は、道に出て、遠くに小さく見えて
いる、あの人のうしろ姿を、見ていた。
振り返ろうとしないその男の姿は、まるで
別人のように、私は思った・・・・・・。
―――すごい長く、私は立っていた。
歩き出す元気が、なかった。
やさしい人?あれが「やさしい」なのかな。
他人にはやさしい。でも、
奥さんをかばってあげれない。
私は、突然、一人ぼっちで知らない町の真ん中
に投げ出された感じがした。
―――足が勝手に動き出して、バス停に歩いて
行ったけど、もう今から行っても、遅刻。
といって・・・・・・どこに行けばいいのかな。


