First love~awaikoi~


私が乗ると、運転手さんが

不思議そうな顔で見る。

―――それはそう。

こんな時間に、この方向の

バスに、学生が乗って

いるんだから。

すぐ次のバス停で、私は

降りた。

あの人は、朝はいつも

ここから乗って行くと言っていた。

もちろん反対方向のバスだけど、

そこも列ができていて、その中に、

あの人はいなかった。

私は、急いで歩き出した。

―――息が切れる勢いで。

あの人に会いたい。それだけを

考えていた。―――もうとっくに

出かけてしまったかもしれない、

それでも・・・・・・。

ため息をついて、足を止めた。

あの人の家の前。窓のカーテンが

開いて、そのガラスに、人の影が

動いている。あの人かな。

と、玄関のドアが開いた。私は、

反射的に、デンシン柱のかげに

隠れた。

「じゃ、行って来る。」

あの人が、玄関でくつを

はいている。

奥さんが、あの人を見送る。

―――私は、心が温まるのを感じた。

そう。これだ。私が見たかったのは。

私は、このまま、あの人が出かけて

行くのを見送って、それだけにしよう、

と思った。

これで十分。

「帰りは早い?」

と、奥さんが聞いている。

「あぁ、たぶんね」

すごくやさしい声。私は胸が熱くなって、

ギュッっとカバンを抱きしめた。

「これを―――」