肌寒い、くもった日だった。

「おはよう。」

と、声をかけたけど、お母さんは、

昨日寝ていなかったので、何の

返事もしてくれない。

私だって、同じだった。

それでも、できるだけいつもと同じ

ようにしようとした・・・・・・。

「ごめんなさい、ミル」

と、お母さんが言った。「気分が

良くないの。お昼は何か買って

食べて」

「うん、いいよ」

と、私は言った。「寝てれば?」

「そうね。―――あんたが行ったら、

そうする」

お母さんは、疲れきった感じで、

そう言った。

私は、トースト一枚食べただけで、

家を出た。

「ミル。―――傘は?」

と、お母さんが聞いた。

「うん、持ってる」

私は、「行ってきます」

と、小走りで、家を離れた。

近所から、同じ方向に―――もちろん、

バス停の方にだけど―――歩いて行く

人たちがいる。誰もが、昨日の騒ぎを

知っていて、私の方をそっと見ている

ような気がした。

どうして―――どうして、うちだけが、

あんな風なのかな?

普通の家みたいに、やさしく、明るく

やっていけないのかな?

バス停には、もう人が並んでいる。

私も、その列に並んでいると、

反対側に行くバスが、やって来た。

そっちは、もちろんガラガラだった。

―――突然、自分でもよく分からない

うちに、私は道を小走りで渡って、

反対側のバス停に走った。

通過しかけていたバスが、急いで

とまった。