「遅い……」

安っぽい壁掛け時計を睨んで、桜は呟いた。

正解には、唸ったという方が近いかもしれない。

桜の目の前にあるのは、既に冷めきったコーヒーと、銀に輝く小さな鍵。

この部屋の鍵なのだが、桜のではない。

彼女の鍵は自室に放り投げられたボストンバックの中にある。

そう、つまりこの鍵は有馬の鍵なのだ。