「えぇっ! 取り壊し!?」

「そうなのよ。ごめんなさいね」

「聞いてませんよ! いつですか!」

「1週間後なの……」

「い、1週間……?」

芝居がかった動きで、桜はぐらりとよろめく。

1週間て。

「本当にごめんなさいね。私も昨晩聞かされたばかりなのよ」

「そんなこと言われても」

「祖父が、ここの土地をどうも借金の担保にしてたみたいで。私もここを取り壊した後は実家に帰らなきゃいけないの」

大家の加藤は心底すまなそうに眉を下げた。

その表情に桜は一瞬引き下がりかけたが、慌ててまた身を乗り出す。

何しろ時期が時期だ。

入学式を目前に控えた今、もう手頃な学生アパートはほぼ無いに等しいだろう。

ここで頷いてしまえば、家無き子になってしまうのだ。

何としてもそれは避けたい。

桜としても、食い下がらずにはいられない。

「困ります! わたし野宿生活なんて嫌!」

「それについては安心して。一応、ここと同じ家賃の物件は用意しておいたから」

「え?」

眉を下げたまま、笑って加藤は鞄から数枚の紙束を取り出し、桜に手渡す。

2LDK、トイレと風呂は別々、エレベーター付き、おまけに駅まで徒歩5分。

これで今と家賃は同じだなんて、ちょっと信じられないくらいだ。

きょとんとしながら紙に目を通した桜は、加藤を見つめる。

「何ですか、この素晴らしい物件は……」

「無理矢理追い出すんだもの、さすがにこれくらいはしなくちゃね」

苦笑した加藤に、桜は大きく頭を下げた。

「今までお世話になりましたぁっ!」

何とも現金だ。