どうせ、手を出してくることはわかってたから、キャラメルを一つ、彩に向けて投げる。
「ありがと。てか、さっきから何見てんの?」
「んー、野球部。」
ベンチの上で体育座りしてるあたしの視線を追って彩がきょろきょろした。
「あたし、ヤキューとかルールすらわかんないんだけど。」
「それ、ヤバいって。覚えなよ。」
「いまさら、何の役にも立たないって。」
昨日と違うジュースを持った彩が言った。
あたしは昨日と同じく、ミルクティーを口にした。
「あのさ、一番の子。」
「あー、なんだけな。あ、そう、橘っ!橘龍っ。」
名前なんか知らないんだよね。あたし。
先週、彩と遊ぶために、電車に乗ったとき、あの少年を見かけた。
あたしのいたホームとは違う正面のホームにいた少年は、あたしらよりも5,6歳年上の女の人にナンパされてた。
本人はものすごく嫌そうな顔をしていた。あまりにも落ちない、少年を諦めて、女たちは立ち去って行った。

