・・・とても、幸福な時間に思えた。



 彼がどんな過去を持っていようと、どんな思いを抱えて、“今”を過ごしていても。


 あたしも、人のことを言えた立場じゃない。

 だから、何も話さないし、向こうも聞いてこない。


 お互いが、お互いを思ってる気がした。

 だから、何も話さないような気がした。



 自惚れかもしれない。それでも、心地いい時間だった。








 
「ありがとな、桔川。」


 いいえ、と笑って返す。

 龍はなぜかそっぽを向いてしまい、ちょっと残念。


 あたしたちは、学校を出て、駅まで歩いた。


 サラリーマンやOLが駅のほうからあたしと龍を追い越していく。

 時折、人を避けるために、龍のほうへ寄ったり、龍があたしのほうへ寄ったり。
 
 その感覚が妙にくすぐったくて、二人で笑った。


 今日1日だけなのに、龍を近くに感じた。


 明日から、こんな日が続く。


 それでも今が続けばいいと思ってしまう。

 時が進めば。

 時間を刻めば。


 ・・・あんたは、思い出になってくんだ。