「須原サン!」

やっと足が動いた。
オレは土手を駆け下り、須原サンを抱き上げた。

「猟。邪魔しないでくれ」

ミドリが無表情で言った。

「殺すことないやんか! オマエそれでも人間かよ! 人間が人間殺して、それでも人間かよーッ!」

ミドリは人間ではない。
宇宙人だ。
日本では宇宙人のことを恐らく人間とは言わない。
エイリアンか、それとも妖怪の類いかも知れない。

「オマエなんか! オマエなんか友達じゃねえ!」

「ペイジャックから離れろ」

「イヤだ! 須原サンはオレが守る。守ってやんねん!」

「ヤツはもう死んでいる。宇宙へ返してやるのがヤツの本望だ」

宇宙へなんか返したら、オマエら、須原サンのこと、さらし者にするつもりじゃねえのか? 
みんなでなぶり者にするつもりじゃねえのか?

「頼むよミドリ。須原サンを、須原サンを助けてくれよ。頼むよ」

オレは須原サンの体をギュッと抱いた。
まだ暖かい。
死んでいるとはとても信じられない。

「猟。ペイジャックから離れろ」

ゾッとするほど冷たいミドリの声に、オレは思わず従ってしまった。
  
オレの手にベッタリと付着した血。

赤い。

まさしく人間の血だ。

須原サンはやはりオレたちと同じ人間だった。