……しょうがなかったんだ、本当に。
どんなに大口叩いたって、
所詮あたしは臆病者だから。
……どうしようもないほどに。
脳裏に浮かんだひとつの優しげな笑顔を即座に抹消する。
……ふぅ。
誰にも気づかれないよう小さく深呼吸した。
思い出すな、何も。
忘れろ、何もかも。
そう自分に言い聞かせ、あたしは一番奥のドアに足を進めた。が、
「……無理、すんなよ」
突然耳もとで囁かれた優しい声に、思わず足を止めてしまう。
「眉間にしわ、寄ってる」
指摘を受けはっと額を押さえると、ふっと彼方は微笑んだ。そして
「んなつらそうな顔すんな」
少し寂しそうな声でそう言うと彼方は一回あたしの頭をポンと叩き“部屋、どこ?”とあたしを促した。
「一番奥…」
「…そうか。おいお前ら〜」
そう言って、笑顔で咲斗達と話し始める彼方を見てあたしはワケがわからなくなる。
今のは…何…?
あたしそんなつらそうな顔…してた…?
でも、他の人にはそんな気づかれてない。
彼方…だけ?
驚きと戸惑いでじっと彼方をみつめてしまう。
すると視線を感じたのか彼方がこっちを向いた。
「ん?どうかした?」
「…なんでもない」
「そか。じゃー蒼空もはやく、案内して」
眩しくなるような笑顔で、またにっこりと彼方は笑う。
ホントに、綺麗に笑うよね…。
羨ましくなるほど。
そう思ってまた見ると、彼方はポンとあたしの背中を押した。
「はーやーくっ」
「わかったから」
私はそう言ってドアに向かう。
「はい、ここがあたしの部屋。…どうぞ」

